hike culture | July 2005
過去、レストランHIGASHI-YAMA Tokyo、和菓子屋HIGASHIYAを手掛けたことで紹介いたしましたシンプリシティが、大分県湯布院にある「無量塔(むらた)」の新設した1棟を手掛けました。旅館は初めての設計だということで、そこにレストラン、和菓子屋を営む、シンプリシティ緒方氏の考え方がどのように反映されたのか、お話を伺いました。
 
今回デザインを依頼された経緯をお聞かせ下さい。

 まず自分が無量塔を、藤林さんもHIGASHI-YAMAを訪ねてきてくれて、すごく共感するところがあって、意気投合することになりました。そしてアルテジオという美術館の仕事をいただいたのが最初です。
 ものすごくセンスのいい方なので、自分もいろんな意味で勉強になるんだよね。それを気に入っていただいたと思うんだけど、無量塔の器とか、いろんな相談を受けたり、付き合っていく中で、無量塔が今度新しい部屋を増やしたいという、実は前々から構想はあったんだけど、そのときはやっぱり進化をしたいと。
 15年くらいになるのかな無量塔が出来て。まだ若いんだけどね、ああいうしっかりとしたものづくりをされてきているわけだから、やっぱり時代は常に常に新しくなる中で、今の旅館、これからの旅館の新しいかたちというものをやっぱり無量塔も考えていかなければいけないし、今までは古民家を移築して、そこにモダンな家具を組み合わせて、今までになかった洗練された空気をつくってきたと思うんだよね。それが湯布院の山の中でとてもクオリティの高い洗練されたものが出来ていると。それはオーナーの藤林さんのセンスがあって出来ていることなんだけど、彼の考えとしては、次の世代がこれからの旅館を考えて行く時に、同じことをしていちゃだめだと。単純に、緒方さんのセンスに託したいというところから話が始まったんだよね。
 
 リクエストは一言で、緒方さんが泊まりたい部屋をつくって下さい。というリクエストだったのよ。それ以外はほとんど何も口出ししてないんだよね。すごく光栄なことなんだけど、それだけ信用もしていただいていて、そこがまず一番嬉しいことで。全部任せてくれたのね。何ケ所かもっとこうした方がいいなというところはあったんだけど、それは本当に細かいところで、梁をもう少し増やした方がいいんじゃないかとか、古材をもう少し使いたいなとか、そういう意見はあったんだけど、基本的な考え方というのはとにかく緒方さんが泊まりたいと思う、無量塔の進化型。本当に100%任せてもらったから、逆に裏切れないじゃない。自分は無量塔のことはよく理解していたつもりだから、あの無量塔が今度やる旅館というのはこういう形だろうなということと、それと自分が旅館オタクみたいなもんだから、自分の旅館像というのが常に頭の中にあるのね。自分なりに本当にこと細かく、旅館はこう作るべきだっていうのが。寝る時、起きた時、食事の時、全てのシチュエーションにおいて自分の思いがあるんだよね。それを実現させてもらったみたいな感じだね。
 だからものすごく楽しい仕事だったわけで。自分のうち、HIGASHI-YAMAとかHIGASHIYAをつくるのと同じくらいの感覚でつくってるかな。ただ与えられた条件、場所がまずあるし、大きさとか、予算とか、広さとかがあるでしょ。もちろんそれはその条件を踏まえた上でのことだけど。それからオペレーションの面でも条件があったんだけどね。でも基本的には自分の勝手を求められているわけだから、最高なんだよね。(笑)

 自分なりに思う旅館はつくりたいと思うし、SIMPLICITYとして旅館をやりたいっていう気持ちもあるから、実験というとすごく失礼かもしれないけど、最高のシミュレーションなわけだよね。やってみてやっぱりとても良かったし。でもやっぱり全然気を使っているよ。今回は。それは浅井さんがいたから出来たんだよね。(※もともと無量塔の仕事をされている建築家で、今回の新館3棟中の2棟を浅井氏が担当、1棟を緒方氏が担当した。)浅井先生がもとをつくっているわけよ。設計監理で。そのなかに自分の棟があるから、実施設計をフォローしてもらってるのね。藤林さんと同じくらいの年代なんだけど、年代も大きく離れているし、お互いリスペクトがあるのね。歳は離れているけど。二人で良く飲んだりするんだけど、すごくいい関係の先生で。その方がフォローしてくれたからうまくいったというのはあって。さすがだなと思ったのは、本当に忠実に自分のデザインを尊重してくれるというか、100%自分のデザインを守ってくれて補ってくれたんだよね。それはすごくあったな。



具体的に緒方さんが考える旅館像というものを、どのようにかたちに落としこんだのでしょうか。


 まずリビングの話をすると、和室は入れてほしいっていうリクエストはあって。自分も畳の部屋は欲しいと思ってたから、もちろん入れますということだったんだけど。まずこういうリビングの開放感があって、同じ空間の中に畳の間というのが存在して、夜の食事は部屋で食べるということもあったんで、夜はその畳の間で食事がちゃんとできるという風にしたいなという中で、ただ何というか普通の畳の間にしたくないというがありました。
 チェックインしたときの畳の間の使い方と、食事のときの使い方の二面性を持たせたいというのがあって。チェックインしたときはこの状態なんだけど、これはカウチ。要は畳で寝転がれるという、それがほしいのね旅館って。まず入ってチェックインしたときにソファとか、くつろげるリビングはあったにしても、まず旅行で疲れて入ってきて床に寝たいんだよね。それが何か好きで、ああ旅館に来たなあという気持ちが、畳に寝転がって大の字になったりすることで得られる部分があると思うんだよね。というのはやっぱりほしいなと。そこはホテルとの違いだなっていうのがあると思うんだよね。ホテルはソファで、靴も脱がないし、どっちかというとまだ緊張感をもって部屋にいるよね。おしゃれにいるところがあるじゃない。旅館の方が居住感というか、自分の家っぽい感覚ができるだけ欲しいわけじゃない。でもセンスよくおしゃれに、という非日常性もほしいと。となるとやっぱり畳にがーっと寝転がって、畳の匂いを嗅ぎながら寝るというはまずほしいんだよね。それでカウチとして畳をカウチにしようということで、枕と簡単なブランケットを置いてるわけね。そば殻を入れた硬い枕を革でつくったんだけど、入ってすぐに昼寝ができると。で、実はこの4帖半のまん中の半帖が電動で下がって掘りごたつになり、食事ができると。この部屋も同じでリビングの開放感の中に畳のそういう部分を残していると。畳の方は天井もちょっと低めに抑えて、床の間も必ずつけて、床があってというその辺のしつらえも入れながら畳の部屋をつくっているね。寝室とは違うのよ。寝室じゃない、寝転がれるスペースがほしいと。立地的にもリビングには外の森林を全部取り込もうとしてるところがあるから、リビングはとにかく抜いてるよね。で、こっちの部屋に関してはその先に池をつくってるから、その水平線をそのままリビングにつながるようにしているね。まあ何しろ、リビングの開放感の中に和室の落ち着きがあるという。ベタベタな急にここだけ和室ですというのもあれだから、まずどうやってつなげるのかっていうことがあったのかな。