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それからこっちの部屋だと、ここから寝室に入っていくんだけど、寝室と洗面所と浴室っていうのはプライベートルームなのね。仲居さんにも入ってきてほしくない、旅館のスタッフにも入ってきてほしくない部屋なわけだよね。そこが大きく旅館というものが分かれていると思ってて、この3つの空間はプライバシーを守らなくちゃいけないから、リビングとか食事するとかからは隔てなきゃいけないというところに、まず大きなルールがあるわけなんだけどね。だから逆に、寝室、浴室、洗面っていうのは一空間につなげてるんだよね。それと二人部屋でほとんど男女で泊まる部屋だから、男女別々の、やっぱり男と女で求めるものが違うわけだから、そこにストレスがないように男用女用と、洗面所を分けているね。それからお風呂に入る際も、中には付き合いだしたカップルとかは裸でうろうろもできないわけだから、そういう意味ではここのドアを閉めれば誰も入って来れないようにもなる。そこを抜けてバスルームに行くんだけど、さらにバスルームを全部解き放つとオープンになって、そのまま露天風呂になると。虫が入ったりいろんな条件から無量塔側からの要望もあって、全部閉めれるようにもつくってある。
ベッドルームはとにかく外が見える、朝起きた時に全部開けると外の森が全部見える、あかりが思いきり入る、そういう風にしてあるのね。それから、ここがポイントで、逆に暗室にできないと意味がないんだよね、寝室というのは。要は寝てる時に真っ暗じゃないと寝られない人も絶対いるわけで。お風呂よりさらにプライベートだったりするじゃない。だから一番のプライベートの場所ともいえる。自分の寝姿っていうのは普通やっぱり見られたくないものだし、特に男女で寝る場合は一番のプライベートになるわけだから。明るい寝室というは朝気持ちがいい、けれど、夜完璧にクローズにできなきゃいけないっていうことから、寝室はフルオープンにすると全部ガラス、しょうじをしめると全部薄明かり、ふすまを閉めると真っ暗、という三枚のドアにしていて、これも自分が思う寝室の理想で、シチュエーションによってはいろんなパターンを使い分けれるということだよね。そういう細部の、こうあるべきだっていうものは、自分の経験の中から自分なりの理想の旅館のかたちがあって、自分なりに思う様々なかたちをつくったのが無量塔だと。
部屋のところどころに凹凸があって、階層に分かれているような印象がありますが。
それはさっき言った通りで。プライベート性を保つという意味で。まず他人から自分たちのプライベートを守ることもあれば、二人で行っててもお互いのプライベートを守ることもあるということを考えると、どうしてもそうなってくるんだよね。まずリビングというのは一番のパブリックスペースなわけだよね。リビングというのは仲居さんも一緒に入ってくると。だからそこは玄関から入ってきて、すーっと見えてていいんだよね。プライベート性が一番少ないところだから。外からもオープンでもいいのよ。でも、寝室、洗面所、お風呂の三つに関してはとにかくクローズにならなきゃいけないから、そこに行く時はそういうステージから違うステージに降りていって、奥に初めて寝室があったりという奥へ奥へと、玄関から遠くなっていくにつれプライベート性が高まると。開放感もそうで、寝室なんかもビジュアル的な開放感はあっても、安心感は当然必要なわけで、足下までのガラスというのは不安だよね。だから寝室の壁は腰壁を絶対つくってるし、開けるとオープンだけど、丸見えにはなりたくない。ベッドは見せたくないでしょ。
でも、リビングに関してはいいのよ。パブリックスペースだから。お客さんが来るかもしれないし、案内もされるわけだし。自宅も同じだよね。あとは奥へ奥へ行くにつれ、シチュエーションも違うし、気持ちも違うから、段差もつけてるし、そういう意図から段差をつけてるというのはあるかな。部屋に入ってどうするかという一連の動作はやっぱりストーリーがあるからね。仲居さんと一緒に部屋に入る前の通路は狭くなっていて、路地風にしているのは部屋に入っていく演出であって、振り返って後ろを見ると、池が見えているという。向こうの広さを見せるために、通路を狭くしているんだよね。要はそこに借景をつくるために。広い中では何も広いと思わないわけで、狭いところに入って広いものを見るから初めて広いと思えるわけで。
部屋に入る前の外玄関っていうのは、これはオペレーションにもよるんだけど、外玄関からパントリーにつながってるのね。だから外玄関まではもっとプライベートではなくて、仲居さんも入ってくるし、もちろん玄関の前の玄関として外玄関というのをつけてるのね。仲居さんがあくまでパントリーを使ってても、あくまで玄関でノックして入ってきてもらうように。いくらプライベートじゃないといっても、いくらなんでもくつろいでる空間だから、入ってこられる時は必ずノックはできるように玄関は閉じてるし、でもパントリーをつくらなきゃいけなかったから、パントリーの入り口をつくる為に外玄関をつくって、外玄関でパントリーは処理するし、新聞等のアメニティは外玄関に全部用意してあると。あくまで自分の都合のいいときに玄関をあけて新聞を取りにいけるというような、雨を凌げる外玄関があって、そこから玄関を入ってリビングがある。リビングまでは仲居さんに見られてもいい空間。さらに奥は見せたくない空間ということで、ステップフロアーになっているということなんだよね。
丘陵の中につくったから、どうしても必ず斜めになるから、最初から段差になるのは分かっていただんだけど、これはむしろいいと思って、どう段差をつけていくか考えたのね。おそらく平らな土地だったとしてもつくってるはずなんだけど、そういう条件からこれはいいということでそれを生かしたベストな状態をつくってるかな。
そういうアプローチの設計に関する発想源は。
アプローチの設計はとにかく自分の歩くイマジネーションだよね。自分が歩いてるときの理想のかたちじゃない。だからその経験がない人は多分つくれないと思うんだよね。よくいろんなこと考えて歩いてるし、旅館も好きで泊まり歩いたりするから、常にチェックしてるわけよ。厳しいチェックをさ。(笑)だいたい文句の方が多いんだけど。そう思っているから、逆に自分だったらこうするのになというのを、常に旅館においてもレストランにおいても、常にそう思うからそれで設計してるかな。
今までの無量塔の流れっていうのは日本家屋をベースをしたものが多かったと思うんですが、その印象とは異なる、あえてモダンな新しい空間をつくるということの葛藤のようなものはなかったのでしょうか。
それは無量塔があるからできるんだと思うんだよね。無量塔という絶対的なスタイルをもったところだから、新しいことをやっても何もおかしくはないと。今回自分に任せてもらったこともあって、自分がいいと思うものをつくろうと、それを期待されているんだという思いはあって、けどそれでも相当気にしたのよ。これはホテルっぽいかなと。相当とがってるでしょ。このへんとか。だからちょっとホテルっぽいんだよね。だから、なんかやりすぎだったかなと、最後まで悩んだね。でも逆にこれくらいやってよかったかなと、結果思ったけどね。それはやっぱりもともともってる無量塔のかたちがあったからここまで出来たことだとは思う。でも、人によって違うからね。今回は、はっきり言って自分のわがままでつくってるから、みんながそう思うわけじゃないんだよね。それもよくわかってるのよ。でもそれでいいかなと思ってやってるんだけど、人によっては仲居さんにどんどん入ってきてほしい人もいるしね。朝5時から起きて、やっと7時になってご飯を食べようっていう人と、9時に起きて早起きだなっていう人とはやっぱり違うわけじゃない。だから決して万人がこれにハマるわけではないと思うんだけど。自分はいろいろ旅館とか見てきて、あの旅館を新しくするならこうだなとか、でもホテルまでもいかないという旅館のホテルの中間をとるとこうだなとか。だから慣れてない人にはちょっと難しいところがあるかもしれない。でも、ほんとに旅館とか高級なホテルとか海外のリゾートを泊まり歩いた人たちはちゃんと理解すると思う。それくらいのしつらえはしているはずで。タオルの置き方から、バスローブの使い方から、そこまで、バスローブなんてここの部屋しかないのね。無量塔は。タオルもバスローブもここだけ特別仕様なんだよ。他の部屋と違って。要はそこまでのリクエストをしたのよ。だからバスローブの使い方だって、バスローブを着たことない人には分からないわけで。バスローブがどこにあると一番ぐっとくるのかっていうことも分からなかったりするじゃない。風呂に入る時にいるのか、じゃなくてチェックインしたときにすぐいるのか、こっちが狙っている通りじゃないと思うんだよね。
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