12:30。ゆっくりと急な斜面を登っていく。しばらくすると、今回の目標の山の頂、通称「おっぱい山」に辿り着いた。裏側は、雪に覆われたなだらかな稜線がずっと続いており、ガイドクラブのオーナーさんが「言葉にならないんだよねぇ そ〜ね〜・・・宇宙みたい」と言ったことを思い出す。登ってきた方向を眺めるとチセヌプリの全貌が見え、その後には、羊蹄山が鎮座していた。登りだけで充分楽しいのに、これからが本番のスキー滑降。いいのでしょうか、こんなに楽しくて。と、はしゃいでいたら、「こんなに良い天気ばかりでないよ、これが普通と思わないでね、冬山はいつ天候が急変するかわからないからね」と釘をさされた。
 
 
体が少し冷えてきた。それを見計らってか、「じゃ、そろそろ滑る準備をしましょう」とガイドさん。スキー板のシール、器具を取外し、リュックに収納する。スキージャケットを羽織り、ゴーグル、グローブを締めなおす。ドロップポイントまで移動し、指示を仰ぐ。ガイドさんは雪面のコンディションを探りながらスイスイと安全地帯まで滑り降りて、僕らに向かって手を振っている。「じゃ〜ここまで来てくださ〜い」。
一回目は短い距離で足慣らし。そう言っても圧雪されたゲレンデとは違う自然雪で春の雪質。ここまで登ってきたからには失敗はしたくない。板先を下方に向け、重心軸をずらすと板が滑り出した。弧を描きながら、安全地帯まで無難に滑る。リュックを背負いながら、そして絶えず変化する自然雪と自然地形を滑る難しさ実感する。

そこから少し左へトラバース(横移動)すると、広々としたオープン斜面が望めた。興奮を抑えつつ、ガイドさんから注意事項と危ない箇所を聞く。そしてこう言いました。「ほら、途中から斜面が少し落ち込んで、先が見えない箇所あるでしょ、僕はそこら辺まで先に滑って斜面の状況を確認します。OKだったら手を振ります。そしたら、眼下の凍結した沼まで滑っちゃって下さい」と。なんと一気に眼下の沼まで滑っても良いと。
 
 
大興奮。かなり長い距離が滑れそうです。眼下を望むと、凍結した沼には小さな点が2つ佇んでいます。きっと他のグループがランチしているのでしょうか。僕のカメラを渡すと、ガイドさんは気持ち良さそうに滑り降りていきました。しばらく経つと、ガイドさんが大きく手を振っているのが見えます。OKということです。一気に滑り降りちゃって下さいと。「おっしゃ〜」と心の中で叫びつつ、この3年間を振り返り、ここまで辿り着く為にサポートしてくれた家族、友人、知人、スタッフに感謝する。ゴーグル越しに太陽を望むと、「ほら、滑っておいで、きっと気持ちいいぞ」と言ってくれている気がします。

ストックを軽く叩きあい、軽くジャンプするように板を下方に向けると、板は表面の硬い雪をとらえながら、切るように滑り降りていきます。・・・・大きく弧を描きながら、悪雪にバランスを崩しながら、ただ目の前の雪面と自分の滑りに集中しつつ・・・・。ハッと気づくと、凍結した沼近くまで降り立っていました。途中からあまり記憶がないのです。後で写真を見る限り、ガイドさんの横をすり抜け、僕は広大な斜面を夢中になって滑降していたのではないでしょうか・・・。

見上げると、白銀にかがやく斜面の中、僕のパートナーとガイドさんがゆっくり滑り降りてきました。それは何ともうっとりな光景でした。